入社2年目のデザイナーに求められる能力は?
この記事を書いた人
1976年 静岡県生まれ。CEO、ブランドマネージャー、ディレクター、コピーライター、日曜エンジニアと5足のわらじで活動中。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会『ブランドマネージャー1級資格』保有者。
このブログの読者層を探ってみると「デザイン業界への就職を考えている学生さん」や「社会に出たばかりの新人デザイナーさん」の存在をチラホラみることができます。
希望に満ちあふれた若い方々に見てもらえるのは本当に嬉しいのですが、日々書いていることが業界ネタ、ブランディングやマーケティングの話が中心で、まだ社会に出る前、あるいは社会に出て間もない人にとって、なかなかピン!とこないかもしれません。
たまには、若い人の役に立ちそうなことを書こうと思います。
若いうちに身につけてほしい『仕事力』
いま僕の視界に映っているのは、入社2年目デザイナーの西森。彼女はいま、先輩デザイナーとチームを組んで、あるECサイトのリニューアルに取り組んでいます。
先輩デザイナーからの指示をうけ、昨日から商品ページのUI設計(ワイヤーフレーム作成)に着手しましたが、どうやら思うように仕事が進まないことで困っているようです。
今日はそんな『現場のリアルな課題』をテーマに、僕なりの仕事論を書こうと思います。
仕事の勘所(かんどころ)をきちんと把握していますか?
さて、昨日の西森の動きを振り返りましょう。
先輩デザイナーから指示を受けた彼女は、いくつかの参考サイトを見ながら、いきなりペンを握り、ワイヤーフレーム描き始めました。デザインというよりも有名サイトの写経です。
おそらく、デザイナーにありがちな『描きながらイメージを膨らめていく方法』をとっただけだと思いますが、方法論の是非はともかく、なにか大事なことを忘れているようです。
それは『顧客ニーズ』。
顧客ニーズを解消することは、仕事の勘所(肝心かなめの場所、ものごとの急所)です。これを忘れてしまうと、リニューアルの意義を失ってしまいます。
顧客ニーズやエンドユーザーの不満は、プロジェクト開始段階でヒアリングできていましたが、その内容を考慮することなく、いきなり有名サイトの設計を写経したようなワイヤーフレームを描き出してしまったのです。
仕事の進め方は現場のメンバーに一任していますが、さすがに見過ごせず、僕は通りすがりに「そのワイヤーフレーム。顧客ニーズを解消できるデザインになってる? そもそも顧客ニーズってなんだっけ?」とアドバイスしてみました。
ハッとした彼女は、顧客ニーズを整理しながら、ふたたびワイヤーフレームを書き直します。
前提条件をきちんと把握していますか?
手描きで丁寧に、自分なりの考えでワイヤーフレームを一通り書き終えた彼女は、さらに参考になりそうなウェブサイトを探しては「見倣いたい箇所」をピックアップし、ワイヤーフレームをブラッシュアップしていきます。
消しては書き、消しては書き。デスクに消しゴムのカスを溜めこんでいくこと半日。その様子を横目で見ていた隣席の先輩デザイナーが彼女に声をかけました。「それって、クライアントが契約してるカートシステムでちゃんと再現できるの?」と。
しばらく「?」という表情をうかべていましたが、先輩から補足をうけ、ようやく「なるほど…」といった表情に変わりました。
そこから、カートシステムの公式ドキュメントや、同一のカートシステムを使っているECサイトを調べはじめます。まだシステム慣れしていない彼女にとって、カートシステムの仕様書を見てもチンプンカンプン。なんだか虚ろげな表情を浮かべ、ディスプレイを眺めています。
結局、昨日中にワイヤーフレームが完成することはありませんでした。
なぜ仕事が終わらないのか
以上が、昨日のスターズデザインで発生した『現場のリアルな課題』です。原因はとてもシンプルで、彼女は物事を深く考えずに仕事を進めてしまっただけなのです。
それでは、一体どうすればよかったのか。あくまで僕の考えですが、先輩デザイナーからワイヤーフレーム設計の指示を受けたときに、彼女は次の4つのポイントをしっかりと先輩に確認するべきでした。
- 何を
- いつまでに
- どのように
- どの程度
この4つのポイントのうち、『何を』と『いつまでに』はもちろん重要ですが、残りの2つ『どのように』と『どの程度』を意識することで、仕事の効率はグンと上がるはずです。
段取りを把握しよう
『どのように』は、その仕事に初めて挑戦する場合、きわめて重要です。
今回のECサイトのUI設計ですが、実は彼女にとって初めての大きなプロジェクト。小さな案件や定期運用の案件とは勝手がまったく異なるため、『どのように』を知ることは重要でした。
- ニーズを把握、整理する
- ニーズを解消する表現を模索する
- 仕様書から実現性をチェックする
- 設計案について先輩のフィードバックを求める
- フィードバックをもとに設計を調整する
- ワイヤーフレームを清書し、顧客に提案する
最初からこの手順を把握していれば、あるいは手順について先輩にきちんと相談していれば、手戻りしたり、消しゴムカスまみれになることはなかったのです。
さらに言えば、「3. 仕様書から実現性をチェックする」という工程が、自分のキャリア的に難しそうなこともわかるため、先輩から具体的なアドバイスを前もって受けることができたはずです。
求められるレベルを把握しよう
そして、『どの程度』も同様に重要です。果たして、先輩に確認してもらう時点で「きちんとしたワイヤーフレーム」は本当に必要だったのでしょうか。
もしかしたら、殴り書きのようなラフ具合でも良かったのかもしれません。大まかな流れを箇条書きにすれば良かったのかもしれません。「3. 仕様書から実現性をチェックする」も、わかる範囲でOKというニュアンスだったのかもしれません。
人まかせにせず、自分から聞きだそう
ゴール(着地点)がぼんやりしたまま、雲を掴むような仕事をしていると、仕事はいつまでたっても終わりません。
繰り返しますが、「a: 何を」「b: いつまでに」「c: どのように」「d: どの程度」をしっかり確認してから着手することが重要です。
仕事を『依頼する側』が配慮することも重要ですが、仕事を『引き受けた側』の責任でもあることを忘れてはいけません。
「そんなこと言われてないから」「教えてくれなかったから」では社会人失格という烙印を押されてしまいます。
スターズデザインのデザイナーたちも、このような経験を積み重ねながら日々たくましく成長しています。そして、この長文をしっかり読んだみなさんもまた、きっと大丈夫だと思います。