送料無料ライン問題もろもろ

この記事を書いた人

送料無料ライン問題

楽天市場(以下、楽天)の送料無料ライン問題(3,980円から一律送料無料にする動き)について、出店者による任意団体「楽天ユニオン」側の要求に応えるかたちで公正取引委員会が調査を開始したそうです。

送料無料ラインの統一による楽天側の大義名分は (1)送料無料ラインを統一する → (2)ユーザーの利便性が高まる → (3)EC市場シェア・流通総額アップ → (4)みんなHappy! でしょう。

大義名分を聞けば「三方良し」だと思うのですが、この送料無料ラインが3,980円と一方的に設定されたところに火種がありました。

店舗への影響

送料無料ラインが3,980円になることで店舗経営にどのような影響がでるでしょうか?

たとえば弊社に置かれたイームズのレプリカチェア。これを1脚あたり5,000円(商品原価2,500円)だと仮定しましょう。

完成品なので荷姿は大きく、資材代が300円かかります。大きな荷物なのでショップがある九州から静岡まで運送するのに1,000円かかります。そして最後に、楽天に支払う販売手数料等が15%かかるとしましょう。

ここまでの話をまとめます。

仕入代:2,500円
資材代:300円(大型ダンボール他)
運送費:1,000円(九州→静岡)
手数料:750円(商品代の15%と仮定)
—————————————
合計:4,550円

この時、消費者側が運送費を全額負担してくれれば、商品代5,000円から必要経費を引いた1,450円の利益が生まれます。そこからさらに人件費や光熱費を支払わなければいけないので、手元に残るのはスズメの涙ですが、なんとか黒字になりそうです。めでたしめでたし。

それが今回の送料無料ライン統一でどうなるか?

運送費1,000円が店舗負担になることで450円しか利益が残りません。人件費や光熱費を引けばズバリ赤字です。

経営が傾くのは困るので「送料無料ラインを勝手に決めるな!」という話になるわけですが、それに対して楽天側は「最初から商品代に送料をのせて販売すれば良い」と言うのです。

そうですよねー。それなら消費者側もわかりやすいし、お店は賑わうし、楽天も売上手数料が増えて儲かりますもんねー。

…いいえ、そんな単純な話ではありません。

運送費は地域ごとに異なるため、送料を価格に含めれば誰かが不利益を受けることになります。おまけに、安易に値上げをすれば信頼は損なわれるし、送料が商品価格に含まれることで販売手数料の負担が増して限界利益率が下がります。

出店者側が抗議するのは当然だと思います。

メルカドリブレ

そもそも送料無料ラインが統一されれば消費者は本当に満足するのでしょうか。

楽天側の発表している「楽天ユーザーからは送料基準がバラバラでわかりにくいとの不満の声もあった」という声は、果たして誰の声なのでしょうか。

なんとなく、ユーザーの声の後ろに隠れて、自社の利益だけを求めているような気がしてなりません。

あるいは三方良しと確信しているとしても、店舗側に不利益が出てしまった場合の補償をどこまで考えているのでしょうか?(すくなくとも現時点では補償の方針は示されておらず、店舗側が泣き言をいえば、担当ECコンサルタントは「利益率の高い商品に絞って広告展開して、売り上げをアップさせましょう!」と広告を勧めてくることでしょう。

1年前の日流ウェブの記事を読み返しているのですが、この施策について三木谷さんに影響を与えたのは、南米で展開されている「MercadoLibre(メルカドリブレ)」と言われています(三木谷さんはメルカドリブレのCEOマルコス・ガルペリン氏と関係が深いらしい)。

マーケットプレイスのメルカドリブレは、送料無料ラインを統一した後、流通総額が劇的に上昇したのです。でも、メルカドリブレは送料無料ラインを超えた送料の半分をマーケットプレイス側が負担しているんですよね。

どうなるか、様子をみてみよう

今回の騒動は、ここ数年の出店者のストレスが爆発したものだと感じます。かつての楽天には出店者と二人三脚で成長しようとする姿勢があったのですが…。EC関連の経営者仲間でも「最近の独善化は寂しいよね」とちょっとした話題になっています。

それでも、物事は表裏一体。

店舗側だけの視点で語るのが正解ではなさそうなので、もう少し様子を見てみたいと思います。これで弊社が携わっているクライアントの売上がドカーンとアップすれば、楽天タワーの方角には足を向けて寝れないわけで。

2020.01.29

©2019 Starsdesign Co.,LTD.